問2.日々我れ

すきなことをかく

通勤途中のアルパカ


【第0回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - Novel Cluster 's on the Star!

「通勤途中のアルパカ」

中川テルユキが通勤途中の電車にて、うつらうつら、短い眠りから覚めたとき、まず目に入ったのは、発売されたばかりのiPhoneだった。先日自らの不注意にて、予約をキャンセルされてしまったテルユキはじっと背面のマークを見ていた。

「どう、いいでしょう? 」

そう声をかけてきたのはiPhoneの持ち主であるアルパカだった。アルパカは器用に吊り革を掴み、不意に大きく揺れる車体に身を任せていた。

「昨日ようやく届いたんです」

アルパカはうれしそうに口をモグモグさせた。完全にイヤフォンのコードを噛んでしまっている。

「や、ていうか、そもそもどうやって使うの」

期待していた反応を得られなかったアルパカは、視線を合わせようとしないテルユキをまっすぐ見つめ、それから少し気分を害した顔で使えますよそれくらいと答えた。そしてこともなげにこう続けた。

「細かいところはケンタさんがやってくれますから」

そういってテルユキが座っていた座席列の端にiPhoneを放る。きれいな放物線の先であぶなげなく受け取ったのは一人のミノタウロスだった。

「せっかく買ってやったのに投げんな」

ミノタウロスは語気を強めて言った。テルユキは小脇に抱えられている斧を見やった。

「だいじょうぶです。あなたが受け取ってくれるのだから」

そしてミノタウロスに向かって、本能と唱えた。

テルユキにはそのように見えたのだが、実際はiPhoneに向けられた言葉であり、その言葉は魔法であったかのように、音楽を再生し始めた。車内には大音量でメロディが流れ始め、ビートを刻み始めるアルパカを横目にミノタウロスは慌てふためいていた。

「音!音大きい! 」

ミノタウロスは必死になって操作をするのだが、その大きな手ではうまく操作できていない。テルユキはそのやりとりを見ていたが、ケンタのつぶらな瞳からヘルプの視線を感じて、こわごわiPhoneをうけとった。とりあえず停止ボタンをおして、アプリケーションを終了させた。

アルパカはとくに気にする様子もなく、イヤフォンをモグモグしていた。

「次で降りますか? 」

「まあ」

「お仕事はたのしい? 」「まあまあ」「いつも寝ているんですか」「まあ」

もったいない、アルパカは誰に言うでもなくつぶやきテルユキの通勤カバンからiPadをとりだすと、Amazonで聖書を購入した。そのあざやかな手つきに、テルユキはなんでコイツはアルパカなんだろうなと思った。

「向上心なきものは、バカですよ」

アルパカはすました顔で答える。テルユキは思い出したようにケンタを探した。かのミノタウロスは次の駅で下車するべく、出入口に立っていた。

「ケンタさん、まだ先ですよ」

「男は黙って、アップルタイザー」

ミノタウロスはそう言い残して、ホームに降り立った。アルパカは、もうこれだからとドアが閉まる寸前でミノタウロスを追いかけていった。

テルユキは次の駅で降り、会社に向かった。ケンタと記名された斧は燃えないゴミ箱に突っ込んでおいた。朝から喉がカラカラになってしまったので、自販機でコーヒーを買ったつもりが果汁100%ジュースが出てきてしまう。リンゴがにっこりほほえみかけるパッケージ。喫煙所でジュースを飲み干しながら、窓から見えるオフィス街の大画面ではアナウンサーが真新しいニュースを伝えていた。

「次のニュースです。青森県の農園よりアルパカが1頭逃走しました。その際、男性一人がなにものかにiPhoneを奪われ軽傷。依然足取りはつかめていません。現地から木村さん」

 

atuihiga tudukanakutemo okaradani okiotukete chihoutosiyori (c)Imada_Natsuki