問2.日々我れ

すきなことをかく

求めよ、さらば  【第2回】短編小説の集い「のべらっくす」


【第2回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

参加です。むずかしかったー。。。

 

『求めよ、さらば』

5.1.

「ホシをください」

最寄り駅そばのコンビニ前の交差点で信号を待っていると、男が声をかけてきた。

ときおり通りすぎるタクシーは割増料金になっていて、今日も遅くまで働いてしまったのだった。だがそれを理由についコンビニに足を運んでしまうのは、あまりいいことではないことだろう。

「ホシを、ください」

「なんのことですか」

さきほどから声をかけてくるこの男に会うのはもう5回目だった。うんざりして相手を見上げてみればくしゃくしゃの髪の毛に隠れて顔が見えない。男はこちらの様子を気にも止めずいつもの質問をいつもと同じ調子で、尋ねてくる。

「ホシのことです」

「持ってません星なんか」

いつものように答えると、信号は青になり、私は足早に渡るのだった。

5.2.

今朝も定時に出社すると、すでに同僚の熊野がデスクにむかっていた。

「早いね、珍しい」

「朝活、朝活」

そういって熊野は明日のミーティングで使うらしき資料を見せてくる。確か昨日の夜も同じものを作っていた。

「あーそういえばこないだ、俺旅行いったじゃん?」「そうなの?」「そうなの。んでお土産」

熊野は引き出しを開けると、そのおみやげをこちらに投げてよこした。なつかしのこんぺいとう、私はパッケージを読み上げる。

「めっちゃ人多かったわー、まあ楽しかったけど」

「おひとりさまですか」

「んなわけねーじゃん。そんなんさみしーわ」

そういって熊野はくしゃっと笑う。彼がくしゃっと笑うのはある話題のときだけで、そうすると私の気持ちもくしゃくしゃと音をたてる。

「はよ資料作りなよ」

私は熊野を促すと自分の仕事に没頭することにつとめる。てかなんだよこんぺいとうって。

***

退社後、最寄り駅そばのコンビニ前の交差点で信号を待っていると、男が声をかけてきた。

「ホシをください」

ときおり通りすぎるタクシーは割増料金になっていて、今日も遅くまで働いてしまったのだった。だがそれを理由についコンビニに足を運んでしまうのは、あまりいいことではないことだろう。

「ホシを、ください」

さきほどから声をかけてくるこの男に会うのはもう5回目だった。いつもの質問をいつもと同じ調子で、尋ねてくる。

「ホシのことです」

「持ってません星なんか。毎日毎日なんなんですか」

そう答えると、信号は青になり、私はさっさと渡ろうとした。だがあることに思い当たり、ぎょっとして振り返るなり男に返事をする。

「私のバッグみたんでしょ。やめてもらえませんそういうの」

信号機は点滅を始め、私は急いで渡りきってしまう。

5.3.

今朝も定時に出社すると、すでに同僚の熊野がデスクにむかっていた。

「早いね、珍しい」

「朝活、朝活」

そういって熊野は今日のミーティングで使うらしき資料を見せてくる。確か昨日の夜も同じものを作っていた。

「なんかそういえばこないだ、俺旅行いったじゃん?」「そうなの?」「そうなの。んでお土産」

熊野は引き出しを開けると、そのおみやげをこちらに投げてよこした。ほしのすな、私はパッケージを読み上げる。

「めっちゃ人多かったわー、まあ楽しかったけど」

「おひとりさまですか」

「んなわけねーじゃん。デートスポットでそんなんさみしーわ」

そういって熊野はくしゃっと笑う。彼がくしゃっと笑うのはある話題のときだけで、そうすると私の気持ちもくしゃくしゃと音をたてる。

「はよ資料作りなよ」

私は熊野を促すと自分の仕事に没頭することにつとめる。てかなんだよほしのすなって。

***

退社後、最寄り駅そばのコンビニ前の交差点で信号を待っていると、男が声をかけてきた。

「ホシをください」

ときおり通りすぎるタクシーは割増料金になっていて、今日も遅くまで働いてしまったのだった。だがそれを理由についコンビニに足を運んでしまうのは、あまりいいことではないことだろう。

「ホシを、ください」

さきほどから声をかけてくるこの男に会うのはもう5回目だった。いつもの質問をいつもと同じ調子で、尋ねてくる。

「ホシのことです」「持ってません」

星なんかと、答えようとして私は今朝のやりとりを思い出す。

信号は青になり、規則正しい音が鳴り響く。

「なんで欲しいんですか」

話を続けるつもりなんてなかったのに、おもわず私は聞いてしまった。男は空を指差す。

「あちらに等間隔でならぶ星を見てください。上の方で明るく輝いている天体があるでしょう。あれはモクセイです。これまでメタンガスによって浮遊しているG-808系の天体だと信じられていましたが、つい最近一酸化炭素がSHK分離により生まれる排気熱をエネルギーとして公転している天体であることがわかりました。それから、その下にあるのがキンセイです。キンセイは567億光年前に大爆発をおこし、いまなおその欠片は地球に隕石となって17年に一度降り注ぎます。それは都市ひとつ、消滅させるほどの威力です」

男は一息にまくし立てると、腕をそっとおろした。あっけにとられたのもつかの間、私は男に見つめられていたことに気付いて我に返る。等間隔を保つ3つの星の並びはオリオン座だというのだと、以前熊野が教えてくれた。だいたいモクセイだのキンセイだの説明がむちゃくちゃすぎる、意味がわからない。

「そんなわけないでしょ。第一、あれオリオン座だし」

「あなたは嘘をついている」

「は、それどういう」

それがどういう意味なのか聞きたいわけではもちろんなかった。しかし私をじっと見つめる男の目は青くて、砕け散ったガラスをまぶしたかのようにチカチカ輝いている。男はまた視線を空に戻すとさきほどの星を指さした。

目を凝らしてみると等間隔を保っていたはずの星のうち、ちょうど真ん中の星が赤や黄色に点滅し始め、ゆっくりではあるが前進している。しばらくするときれいな一直線は崩れ、2つの星がぽつんと残された。

そのまま空を見ていると、点滅しながら前進していく光がいくつもいくつも見えた。

「ヒコーキ……」

信号機が規則正しい音をたてている。隣にいたはずの男はいつのまにかいなくなっており、残された私は一人、途方に暮れた。

5.4

「ホシをください」

最寄り駅そばのコンビニ前の交差点で信号を待っていると、男が声をかけてきた。

ときおり通りすぎるタクシーは割増料金になっていて、今日も遅くまで働いてしまったのだった。だがそれを理由についコンビニに足を運んでしまうのは、あまりいいことではないことだろう。

「ホシを、ください」

さきほどから声をかけてくる相手を見上げたものの、くしゃくしゃした髪の毛のせいで顔は見えなかった。相手はこちらを気にすることもなくもう一度おなじ質問を繰り返す。

私はなんのことですか、といいかけて、今朝のやりとりを思い出した。

「これのことですか」

私はカバンの中からキーホルダーをとりだすと、男に投げてよこす。男はそれを取り落としてしまう。

「おやすみなさい」

そういって私は青信号をわたってしまう。夜空には私と同じ方向にむかって飛行機が飛んでいた。

6.

今朝はいつもより早めに出社すると、すでに同僚の熊野がデスクにむかっていた。

「早いね、珍しい」

「朝活、朝活」

そういって熊野は午後のミーティングで使うらしき資料を見せてくる。確か昨日の夜も同じものを作っていた。

「そうそうそういえばこないだ、俺旅行いったじゃん?」「そうなの?」「そうなの。んでお土産」

熊野は引き出しを開けると、そのおみやげをこちらに投げてよこした。私はほしのおくりものと書かれたヒトデとおぼしきキャラクターのついたキーホルダーを受け取る。

「めっちゃ人多かったわー、まあ楽しかったけど」

「彼女と?」

「まーね。1年とかはやいわー」

そういって熊野はくしゃっと笑う。彼がくしゃっと笑うと私の気持ちはすこし落ち着かない。でも悪い気はしない。

「資料さっさと終わらせなって」

私は熊野を促してやると自分の仕事に着手した。

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