問2.日々我れ

すきなことをかく

第6回 短歌の目8月の感想10首

tankanome.hateblo.jp

引用スターつけていた短歌の中からさらにしぼって順不同で10首とらせていただきました。
選んだ基準、というとなんだかおおげさなような気もしますが、「言葉の組み合わせによって生成されたイメージの豊かなもの、面白いもの」を選ぶ傾向にあったと思います。以下では、なぜ魅力を感じたのか分析していきたいと思います。

1.ジャワ

あの夏の下駄箱脇の自販機に残されていたジャワティー、ダカラ

まず音がいいなと思いました。「あの(あ)」「夏(な)」「下駄箱(たば)」「自販機(は)」「ジャワ(わ)」「ダカラ(だから)」の「あ」の音をうまく選んで持ってきていることでリズムを感じます。下駄箱が学校をイメージさせ、さらに(日陰になっている)下駄箱の脇にぽつんとあるであろう自販機にジャワティーとダカラという夏らしい清涼飲料水が残されている状況が、早くすぎてしまう夏がひっそり残していった夏のかけらを感じました。

7.くちづけ

くちづけのたびに濃くなる死のにおい煙草で消して年上の人

上の句(575)で一気に不穏さが立ち込めていて、そこから下の句への開き方が整っていると思います。欲をいえば整っている分、ちょっと上の句に対して弱いかもしれない気がしました。ただ「煙草で消して」を「消して煙草で」のようにリズムをあえて崩しにいってみたりというのも個人的には考えてみたけれど、「煙草で消して」がしっかりしているのでなるほどこれでいいのだと思いました。「人」は「ひと」にすると歌中のひらがなと漢字のバランスがいいような気がします。

9.菊

今世紀最大級の菊地対菊池の戦を忘れてはならぬ

菊で2種類のきくちが出てきたのが素敵です。ぜひ円城塔『後藤さんのこと』を読んでいただきたいです。
この謎のかけかたは現代短歌ぽい。今世紀最大級と引き上げておいて菊池対菊地の戦という謎。今世紀最大級だから、多分菊地と菊池は各陣営かなり多いのでしょう。あろっとおぶきくち。
今世紀最大級という言い回しはうまく使わないとチープになりやすいと思うのだけどここは固有名詞がもたらすミステリアスさが効いてると思いました。あと音がこんせいきさいだいきゅうのk・s・t(d)の鋭さがきくちたいきくちのk・s・tに結びついていて、いくさ(k・s)への躍動感につながっていると思います。

2.くきやか

震えだす薄荷糖から空の果て君立ち上るほらくきやかに

薄荷糖の透明感が歌全体に広がっていて、なんだろう、口の中で転がしていたい感じです。「震え」「薄荷」「空」「果て」の音の抜けが涼やかで心地よい。
おそらく文章の流れを汲むのであれば

震えだす薄荷糖からくきやかに空の果てにてきみ立ち上る

となると思うのですが、音の心地よさは断然本歌だと思いました。

6.日焼け

朝夕のわずかな光に日焼け止め塗って夏から遠ざかりゆく

シンプルだけど無駄のない歌だと思います。私たちは夏を享受したがるのに、実はせっせと遠ざけている、その気づきにはっとさせられました。

1.ジャワ

帰省した内気な孫に言う祖母の呪術のような「ソゲジャワカラン」

私もたいそう内気な孫でした!出雲弁のわが祖母の小言はほんとうに呪術で、ああもう身に覚えがありすぎる!カタカナ表記と濁音がまさに呪術だし祖父ではなく祖母なのも魔女というかイタコというか呪術的です。

1.ジャワ

テーブルのリネンに島を描きたるジャワティーの染み南の絵地図

染みの形は思い思いになんの形であるか当てはめることが出来ると思うのですが、ジャワティーだからこそ島を描いているのだと思いました。「テーブル」「リネン」「島(し)」「描きたる(え・き)」「ティー」「染み(しみ)」のいとえの音が伸びやかで広がりがあって風が吹き渡る感じがします。

4.冥

一面を染め焼け落ちた 何もない 冥い空見上げ 学童は啼き

情景の移り変わりのテンポがよくて好きです。「染め焼け落ちる」というのが太陽がゆらぎながら空を赤く焼くように染め、やがて燃え尽きてしまう日暮れのその変化を7音で詠んでするところがすごいなと思いました。そこから一転暗くなってなんにもないところに学童が音として出現するところに不穏な動きが出ていて面白いです。

3.蝉
たましいの羽化した蝉の抜け殻はタンパク質を ( よる )に晒して

下の句がすごく好きです。生命さえもタンパク質に還元されるその視線はともすればそっけないものとして現れうるものですが、かつて宿っていたたましいが新たな生命として出て行き残された抜け殻がひっそりさらされている、そのやわらかで危うい感じがたましいとタンパク質をうまくつなげているのだと思いました。

8.風鈴

風もない熱帯夜には風鈴も倦んだ暑さの中で眠る

 普通、イメージ通りに詠むならば風鈴は涼やかに鳴るものだと思うんですよね。それをひっくり返していくのも短歌の面白さだと思います。夜に風鈴を眠らせることで立ち上る暑さをさらに「倦んだ」と形容することであの重たい暑さがよみがえってくる再現性の高さが好きです。しいて言えば、風鈴が眠ることで風のないことが表現されているので初句で別のことを詠みこんでみるとよりイメージが豊かになる気がしました。

以上拙い感想ではありますが10首取り上げさせていただきました。ありがとうございました。

atuihiga tudukanakutemo okaradani okiotukete chihoutosiyori (c)Imada_Natsuki