問2.日々我れ

すきなことをかく

くちびるとめどなく(短編小説)

単発で短編小説書きたくなったのでちょっと書きます。

 

 

Title: くちびるとめどなく(1,106字)

「んーっ、これめっちゃおいしいよ、たびぃ」

ひたすらふゆみの唇を凝視していた旅子は、ふゆみにたびぃと呼びかけられて我に返った。目の前でふゆみは目を細めながら言葉にならない声をあげている。

「よかったね、ふゆみ」

写真と変わんなくて、と旅子は言葉を続けながらふゆみの口元に運ばれていくいちごパフェが口の中に消えたときの唇の形を好ましく思った。

「たびぃ、いちご嫌いなの残念すぎるよ」

わたしのためにふゆみが顔をしかめている、そのことはとてもうれしいことなのにそのときのふゆみの唇は旅子があまり好きでない唇だ。物事はいつだって両立することがないことを旅子はずっと前から知っている。

「ふゆみがおいしいならそれでいいよ」

そうやって旅子はいつもと同じトーンを保ちながら発声するが、ふゆみは返事をすることもなく目の前のいちごパフェをひたすた飲み込んでいく。おいしい、という言葉はすでに聞けなくなっている。ふゆみのおいしい、という言葉はいつもその表情からは想像できないほどのっぺりしていて、旅子はそういう自覚のないふゆみのうまれもった嘘つきな唇のこともとうに気づいてしまった。

ホイップクリームのとんがりがきれいないちごパフェも、あっというまに空のグラスと化していく。引っかき傷のようなグラスの内側に残るソースをふゆみは無心にこそげとろうとする。 その無駄な抵抗を目にしながら旅子は、いったい女の人を好きにならないということはどういうことなのだろうと思う。

「そういえば、ゆうくんが。またドタキャンしたの」

ふゆみは空になったグラスを長いスプーンでこすりながらいう。

「うん」

「だから家行ったら、ごろごろしてて、もう意味分かんないよね」

うん、意味分かんないね。うれしそうな声でひどく顔をしかめるふゆみは全く正しいよ、だからその正しさを知っている私にその唇を、ここまで声に出さずまくしたてた旅子に、血色がよくなったふゆみの唇は季節外れのいちごなんかよりもずっと赤く見えた。

「男の人ってそういうのあるよね」

「あるよねー。もうやんなっちゃう。ごちそうさまでした」

空になったグラスは音をたてた。恋人の部屋へいくふゆみ、を想像してしまうが旅子ももちろん自分の恋人をないがしろにするつもりはなく、むしろふゆみの唇と同じぐらい、彼のくるぶしを好んだ。

「今日は付きあわせちゃってごめんね」

「いいよ」

暇だったし、いいよ、と旅子は思ったが言わなかった。これからふゆみは恋人と会うのだ。椅子をテーブルにしまい、旅子はそそくさと二人分の会計を済ませてしまう。ふゆみはいつも旅子が会計を済ませてしまうことを知っているが、それを咎めたことは一度もない。

「じゃあまたこんどね」

「うん」

ふゆみの背中を少しの間見送った旅子は、もうあいまいになってしまったいちごパフェを思い出すように、女の人を好きにならないということはどういうことなのだろう、と思った。

 

<終>

atuihiga tudukanakutemo okaradani okiotukete chihoutosiyori (c)Imada_Natsuki